東峰村・宝珠山の自然
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bP「宝珠山の自然と生物」(2010.11.1更新)


◎宝珠山村には、自然の象徴として村花・村木・村鳥がありました。

村花 ゲンカイツツジ(玄海つつじ)

特徴
 春の訪れを知らせるかのように、3月の下旬早々満開となります。葉が出る前のそれぞれの枝先に1〜3個柔らかい淡紅色の花が咲き、低木全体を目が覚めるように彩ります。そして、秋になると美しい紅葉を見ることができます。

 排水の良い土地を好み、火山岩の崖によく生育します。養分の少ない土地で成長するので、小木であっても多くの年数がかかっているのです。

 遠い昔から、英彦山系の山々の崖で命を繋いできた数少ない貴重な植物で、村内の岩屋公園の崖に生育するゲンカイツツジは福岡県の天然記念物に指定されています。

村木 ケヤキ(欅)

特長
 日本の代表的な広葉樹で、大木に成長したものは、空いっぱいに枝を広げて素晴らしい雄姿を見せています。

 初夏の若葉の鮮やかな色彩と、秋に色付いた黄葉は実に美しい。名前の由来は、材の木目が美しくけやけき(際立っているの意)からケヤキとなったと言われています。

 湿気に強く保存性に優れているので、神社仏閣などの建築材として大きな役割を担ってきました。また、彫刻材、家具や調度品、食器、街路樹としても広く使用されています。

 村内では浅間山西の谷川沿いに、大木に成長したものが数本見られ、炭焼き窯跡と一体となって、昔を偲ばせる風情をもたらしています。

村鳥 ハクセキレイ(白鶺鴒)

特徴
 夏季は背筋が涼しく美しいすきっとした黒と白のコスチュームで、冬季はグレーに近い比較的ソフトな感じの姿になります。顔の部分が全体的にきれいな白色で、目を通って横切っている黒い過眼線があるのが特徴です。

 地鳴きは、チチッやチュチュッ、澄んだ声のチチィーンなどいろいろな声で鳴きます。水辺や田畑の中を忙しく歩きながら昆虫類など小動物を捕らえています。

 長い尾羽を上下にリズミカルに振っていて、その様子が石を叩いているように見えることから、「石たたき」とも呼ばれているキセキレイやセグロセキレイと同じセキレイ科です。


○宝珠山村の生物概要

 宝珠山村の動植物の主な生活圏・生育圏は、大きく5つのゾーンに分けることができます。次の「宝珠山村全図」を見てみましょう。

●その一つは、村を囲むように位置する大小さまざまの山が連なる森林圏

●二つ目は、その森林圏から集まってきた水が流れる宝珠山川と大肥川、水田用の小さな人工溜池などの水圏

●三つ目は、岩屋公園を代表として、村内に点在している火山岩で構成された岩圏

●四つ目は、人々の生活域とする田畑圏

●五つ目は、人々が生活の安全・安定を願い、自然への感謝の意を表すために神々を祀った鎮守圏です。

 さらに特筆すると、村内だけで3つの駅を持つJR日田英彦山線の土手、石炭産業の廃物として堆積されてできたボタ山、東と西を南北に走る3つの林道沿いが上げられます。




<英彦山系の宝珠山の深山に連なる尾根 中央やや左は浅間山>

 森林圏は、自然林と杉・桧が主体となった人工林とがあり、その殆どが人工林で占められています。自然林は、大日ヶ岳と釈迦ヶ岳、浅間山に多く残されていて、いろんな動植物が生活を営み生育しています。比較的高い山の台山・城ヶ迫・土師山などは、山頂までその殆どが人工林で占められていて、自然林は崖の多い場所や谷川沿いなどの狭い範囲で残されています。

<奈良尾橋付近の保護の行き届いたネコヤナギの群生>

 水圏の宝珠山川と大肥川には、フナ、ハヤ類、カマツカなど様々な魚類、水生昆虫、ネコヤナギ、セキショウ等々動植物が生活し、カエルやトンボのように水中と陸の両方で一生を送る動物が生活を営んでいます。

 これらの小動物や水中の藻類などを餌として、カワセミ類、サギ類やカモが生活しています。

 村内には自然の池が無く人工池も少ないのですが、猿喰には自然に近い状況を保っている小さな溜池があります。カエルやイモリなどの両生類やトンボやミズカマキリなどの水生昆虫などにとっては貴重な繁殖の場所になっています。この池の周辺部では、マムシ、トカゲなどの爬虫類をよく見かけます。


 田畑圏は、人と動植物が日々共存をしている場所です。人が営む季節ごとの農作業によって生じる自然環境の変化に応じて動植物の生活も変化していきます。

 畦道や石垣にはヨモギ、キランソウ、ノビルなどの植物が生育し、田んぼに水が入るとカエルやイモリ、各種のトンボが産卵し、そしてウキクサなどが繁殖します。そこへ、爬虫類や鳥たちも獲物を探しに集まってきます。

 村内の殆どの水田の畦道は、労働の軽減と安全確保などの理由でコンクリートに改修されています。それでもいろんな小動物が集まり、春の休耕田には親しみの深いナズナ、スズメノテッポウなどの植物が目いっぱいに群落をつくっています。

 しかし、今日では消毒や除草剤の使用などで動植物が生きていけない環境条件も多く、水田の生き物の様相も随分と様変わりしました。特に、除草剤によって水田や小川から姿を消した動植物が多く、その影響は計り知れないほど大きいものがあります。

<深山と平野部の中間に位置する鎮守の森 岩屋>

 岩圏には、岩屋公園で見られるように、他の圏とは特異な植物が生育しています。例えば、イワヒバ、ゲンカイツツジ、セッコク、イワタバコ、ネズなどは殆どが岩圏で生育しています。岸壁は一面を見渡せるので、植物の観察や小動物の観察が容易にでき、岩圏ならではの学術上の貴重な研究も期待できます。

 また、村内の比較的小さな山は岩屋と同じ岩塊のものやよく似た地質を持っているので、露出した岩肌には類似した生態系が見られます。


 鎮守圏は、岩屋神社、高木神社、北山神社、ほかの神社等で見られるように、神事を司るために必要とされた樹木や、社を強い風雨から守るために植えられたもの、または、その場所に生育していた樹木をそのまま大事に守ってきたものが残されています。
 他の草本や小動物は、その環境の中で適応したものが育ち生活を営んできました。鎮守の森は、その地域の土地で育った植物が殆どで、学術的にも貴重な場所になっています。


 JR線の土手は、自然に自生している様々な草本植物や樹木、植林された草本類・樹木などが生育しています。
 また、イネ科植物などに覆われて草原の状況を呈している場所もあります。季節によって、ハナウドの白い花で、或いはヒガンバナの赤い花で彩られながら、四季折々に表情を見せています。


 ボタ山は、炭鉱が完全閉山となった昭和38年以降に、地衣類・コケ類・シダ類・草本類が本格的に生育を始めて徐々に木本類が生育するようになり現在に至っています。
 ボタ山でできた林は、今は役場対岸の山林の合間に残されています。

<林道大日福井線>

 林道沿いは、森林の中でも日差しを多く受ける場所です。そこには、日向を好むススキ、ハギ、クズ、キク科の仲間などが群落をつくっています。また、各種の樹木や谷水が出ている場所には湿地を好む植物や小動物が生育しています。



1 植物の概要

 宝珠山村の植物の特徴は、国定公園の岩屋の鎮守の森とその周辺に集約されています。

 それは、岩塊に生育している特異な植物、英彦山系の標高の高い深山や尾根に大群生を成していた植物、明るい林道に生育している植物、平野部で一般に見られる植物など、多くの種類の植物で群落を形成しているからです。

 その中には、福岡県から天然記念物に指定されているゲンカイツツジ・大イチョウ・大ツバキが生育しています。そのほか深山に生育しているツクシシャクナゲやコバノミツバツツジ、岩塊に生育するイワヒバ・カタヒバ・セッコク・イワタバコ・ネズなども大切に保存されています。

 村の最北の深山に連なる尾根には、かつてツクシシャクナゲやコバノミツバツツジが大群生をしていました。しかしながら、昭和30年に釈迦ケ岳トンネルが完成するまでの工事の期間に、そしてトンネルの完成後も庭木ブームが湧き起こり、深山の代表ツクシシャクナゲやコバノミツバツツジの大群生は掘り起こされ、荒らされてしまい貴重な自然を失いました。

 さらに追い討ちをかけたのは、自然種の園芸ブームでエビネやクマガイソウ、セッコクなどのランの種類も多くを失いました。それぞれの家へ持ち出されたこれらの植物の多くが、本来の生育環境と全く異なった環境に移されたためにやがて枯らされ命を絶たれています。このことを考えると、山野草ブームになっている今日、植物に対する人の愛情の注ぎ方のあるべき姿を考えなければなりません。

 岩屋一帯は、平野部と深山との中間的な位置に在り、両方の陸上植物が生育できる環境を持っています。そのため、村内の植物を保存できる貴重な博物館と言っても良いでしょう。

  <清水に生育するベニマダラ(赤い部分)>


 清流の川辺に育ち山懐の春の風情を湛えるネコヤナギが宝珠山川に目立ちます。大肥川にも多くあったのですが、護岸工事や川の清掃の徹底で現在は見つけるのが難しくなっています。同じく清流に育つセキショウは谷川まで多く生育しており自然の潤いを醸し出しています。

 また、きれいな水の環境で繁殖するベニマダラという紅藻類の水中植物が、大肥川や宝珠山川、農業用水路の岸壁や石にどこにでも見られるのも大きな特徴です。


 南北東西に造成された幾つもの大きな林道には、明るい場所を好む植物が年々変化しながらその変遷を示しています。村道杷木宝珠山線と林道竹布線は年数が経ち、林道土師山線・大日福井線は中間で、林道城ヶ迫線は現在造成中で最も新しく、植物種の繁殖の変遷がよく分かります。

 その変遷を観察・研究するのに適している場所です。これらの林道は自然林や人工林を貫通しているので、今まで目立たなかった植物や、風や鳥獣に運ばれて繁殖している変化を一つの線で、また、いくつかの線を対比して見ることができます。切り通しの壁面にはコケ類、シダ類、草本類の植物が生育を始め、後に木本系の植物が繁殖を始めています。

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