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第二章 筑前町の動物

第二節 生態系『川』の動物

一 水生動物にとっての川の環境


 筑前町を流れる主な川としては、草場川・牟田川・曽根田川・天神川・山家川・三箇山川・櫛木川・太刀洗川の八本が挙げられる。
 草場川は、町内の川の中で水生動物の種数と個体数が最も豊かである。
流れの傾斜は小さく、淵・平瀬・早瀬が交互に形成されていて、浮き石・沈み石が点在し、食物連鎖の起点となるプランクトンや底生生物が増えやすい環境となっている。さらに、川辺は植物が豊富で昆虫類も多く、魚や両生類、爬虫類のえさ場となっている。支流には、谷川・長音寺川(中流域で梅川が合流)・渓川がある。

淵・瀬・川原がみられる中流域(草場川)

 曽根田川は、他に見られない清流域が多くその距離も長い。この清流には魚のカジカやタカハヤ、ミヤマカワトンボが多い。主流にある屋加崎橋すぐ上で三並川が合流している。花崗閃緑岩が風化してできた砂に埋め尽くされているため、水生動物にとって重要な淵・浮き石・沈み石は少ない。
 山家川が本町域にかかるのは、間片橋上方四〇〇bの中流域からである。
 曽根田川と山家川は、中流以下がほぼ直線的になっている。そのため、豪雨の時には、春から増殖し始めた魚や水生動物の多くが、大量の砂と共に一気に宝満川へと流されて個体数が激減する。

川岸が整備された下流域(曽根田川)


直線形の下流域(山家川)

 三箇山川・櫛木川は、町北部にあり飯塚市の穂波川上流となる。いずれも曽根田川・山家川と同じで、川底は花崗閃緑岩が風化した土砂に満ち、栄養分は少ないので水生動物の種数・個体数は少ない。

川幅が狭い清流の上流域(三並川)

 太刀洗川は、国道五〇〇号線と交差する場所からすぐ上流で、折口川と合流している。これより西側に分岐した太刀洗川上流域は、ヨシが長い距離に繁茂し、様々な魚介類が生息している。カワセミも見られ、復活してきたマルタニシも多い。東側に分岐した折口川は、三本の支流も含め三面コンクリートの水路となり、魚類が豊かに生息できる環境ではない。

ヨシが繁茂する太刀洗川

二 人々の心を癒すゲンジボタル

 昭和二十年代の後半頃までは、まだ、町内のどの地域のどの川にもゲンジボタルがたくさん舞い、川沿いの農道ではそのホタルの明かりで農作業から帰っていた。上高場では、大規模な蛍合戦を草場川で満喫していたものである。子どもたちは、水で濡らした竹ザサを肩に担いで駆け回り、葉にホタルを多く止まらせる遊びを楽しんでいた。
 現在の蛍観賞の場所としては、草場川上流域(弥永・依井)、梅川上流域(栗田)、三並川(陣ノ内橋上下・大井手橋上下・黒岩)、曽根田川(曽根田)、天神川最上流(牧ノ池下 砥上)が挙げられる。また、規模は小さくても、観ているとほっとする楽しさを感じる所も年々増える一
方である。現在、蛍合戦の様子は、三箇山川(桑ノ元)では背景が林になっている場所、草場川上流域では、川より少し距離を置いた場所の農道や住宅側からがよく分かる。草場川と国道の交差点に架かる久光橋下方は、これから素晴らしいホタルの観賞地になることが予想される。理由は、ホタルの幼虫が蛹化する川岸や土手の面積が広く、成虫となったホタルにとって、休息できる桜並木があるからである。

蛍合戦(三箇山)
筑前ホタルクラブ
 平成二十五年の六月上旬、草場川上流域のゲンジボタルの乱舞は素晴らしく、その距離は草場川橋付近から上流の弥永までのおよそ一・五kmにも及んでいる。この地域に、沢山のホタルの光が戻ってきた要因の一つに、平成十五年、文化少年団に設置した「筑前ホタルクラブ」の活動がある。
メンバーは、少年団員やその保護者と関心の強い一般の住民で構成された。『ホタルを増やし、草場川に清流を取り戻そう。』 を目的にした活動は、ふれあい広場の中に人工の川をつくることから始まった。その川でホタルの幼虫の餌となるカワニナ(ご ひな)を育て、自作の産卵箱で産卵・孵化をさせ、幼虫を放流する活動である。

栗田の蛍観賞会
 この筑前ホタルクラブ活動は四年間続けられ、現在は、依井在住の方がその精神を受け継ぎ、ゲンジボタルの幼虫を毎年草場川に放流している。水質の改善と相俟って、町内で最も規模の大きい蛍観賞の場所となっている。

自作の産卵箱
 この蛍観賞会は栗田公民館(館長)主催で、子どもと保護者及び家族を対象に、梅川上流域で毎年行われている。平成五年に始まり、現在も続けられ長い歴史を築いている。観賞会の内容は、年によって少し違いはあるが、平成二十五年度は@ホタルの学習(種類・♂と♀の違い・飛翔の仕方)AほたるクイズBホタルの観察(所要時間約三〇分)=梅川上流域と釜寺池南の水路(順路は栗田公民館→谷→長福寺→田中園→寺屋→新道→旭の下→栗田公民館)C終了後におやつの時間等である。また、蛍観賞会が安全に行われるように、区長、会計、隣組長(六人)、育成指導員(二人)の方々の協力体制がとられている。幼少時の蛍観賞会を通して、地域の自然を大切にする心を育み、地域の絆を深めることが伝統になっていることは、実に素晴らしく銘記すべき行事と言える。
 栗田のゲンジボタルが早くから保存されて来た最大の理由は、圃場整備のときに川底をコンクリートにせず、自然保護の立場から、 自然の川底と植物を残した保全活動を地域全体で取り組んできたことである。

休止時のホタルののどかな光(栗田)

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